ぶっちゃけ、看護師として働いていたから、
おむつ交換も、吸引も、
何かあった時の対応も、
なんとなく分かっているし、
「大丈夫」だと思っていた。
でも、それは
病院という環境で
看護師として働いていられたから。
あの頃の私に言いたい。
そんな、甘い考えじゃだめだぞーって。
病院では、
患者さんを見ることに集中できる。
ご飯は出てくる。
汚れたシーツやタオルは洗濯に出せばいい。
誰かと交代できる。
勤務時間が終われば、仕事も終わる。
でも家は違った。
介護だけじゃない。
洗濯して、
ご飯を作って、
買い物に行って、
子どもの予定もあって、
仕事もあって。
その合間に、
ちょっとお願いって
父の用事が割り込んでくる。
耳かゆい?
おぉ、待って。今おっぱいあげてる!
バナナの皮むけない?
ちょっと待って、
今、体の向き変えてるから。
待って、ちょい
動ける人は、自分で
みんな、できること、早く増やして。
家に帰ってきて、
思わず叫んだ。
「全部やるんかーーい!」
在宅介護の大変さって、
医療行為そのものじゃない。
一つひとつは大したことない。
とりあえず、手が足りない!
それが、
在宅介護のリアルなんだと思う。
そして、母。
何回教えたら、
体の向きを変える時に持つ場所、覚えるん?
「そこじゃない!」
「手じゃない! 肩!」
このやり取り、何回目だろう。
新人指導なら、とっくに独り立ちしてる頃。
やりたくてやっているわけじゃない。
母だって必死なのは分かってる。
……だとしても、
そろそろ覚えてほしい。
とにかく、毎日手一杯。
もう少し時間があったら、
宿題を見てあげたい。
まぁ、求められてないけど。
一冊くらい、
ゆっくり絵本を読んであげたい。
まぁ、求められてないけど。
のんびりソファに座って、
「おかえり」って待っている母になりたい。
まぁ、
「ママ、あっち行って。」
「早く寝て。」
って言われるんだけど。
でも、子どもたちがいるから。
「第二子、父のベッドでアイス食べない!
シーツ、びっちょなんだけど!」
「おぉい、第三子、よだれすごい!
シャツ汚れた!ちょっと、どかせ」
気づけば、
第二子は父のベッドによじ登り、
勝手におやつを食べている。
介護だけだったら、
もっと父のことだけ考えていられたかもしれない。
でも、家族みんなが介護だけを見ていたら、
きっと息が詰まっていた。
父が「耳かゆい」って言っても、
「ちょっと待って!
今、おっぱい!」
そんな毎日だから、
笑えることもある。
父と母がケンカした次の朝。
第三子を連れて母が父の部屋へ行く。
そして、父の胸の上に置かれる。
「また一段と、デブに。」
そんな父のひと言に、
うつ伏せでバタバタする第三子。
さっきまで険悪だった空気が、
少しだけゆるむ。
第三子、いい仕事する。
忙しくて、
うるさくて、
思い通りにならない毎日。
あの日、
父が倒れて壊れた日常は戻らなかった。
でもその代わりに、
笑ったり、怒ったり、バタバタしたりする、
新しい日常ができていた。
その日常に、父がいる。
それで、よかった。

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