「車いすを自走したい」
ケア会議で父が言った。
まぁ、目標があることはいいこと。
いつか、車いすを自分でこげたらいいよね。
って、ちょっと遠い未来だと思っていた。
家族も、リハビリの先生も、みんな。
でも、父、早々に、その目標に向かって
みんなを動かしだした。
「これじゃ車椅子こげないから、違うのにするか」って。
えっ、もう漕ぐんですか?
段階とか、あるんじゃないんですか?
「今の状態なら、できますよ。」
リハビリの先生が、さらっと背中を押してくれた。
「じゃあ、そのために何が必要?」
と考え始めた。福祉用具さんも、
家族も。
デイケアのリハビリの先生も。
すごい、たくさんの人に支えられている。
使っていた車いすは、
リハビリ病院を退院するときに選んだものをずっと。
ティルト&リクライニング機能付きで
車椅子のまま寝ることができるやつ。
ハイバックで、首や頭を支える枕もついている
ごつい、重い車いす。
「自走すると、車いす倒して
休むことできなくなります。
足の角度も変えられないよ」
とリハビリの先生。
「いらない、いらない。今、そんなに横になって休むことないから」
以前なら、
車いすを倒して休めることが大事だった。
それが今は、
「そんなに横にならないから。」
父の口から、そんな言葉が出てきた。
福祉用具さんが、何個も車いすを持ってきてくれた。
車椅子の高さ
足がつくか
そして、父でかいから、座面の幅も。
何個も乗らせてもらって
やっとこさ、決まった。
マットな黒のかっこいい車椅子。
父に似合っている。
こちらとしては、軽くて、軽くて
押しやすい。
ハイバックがなくなったから
リフトから車いすに乗せるとき
どうしてもお尻の位置が定まらなくて
お尻を後ろに引かなければならない。
今まで、2人がかりで母とやっていたのが
1人で後ろからよいっしょって抱えればできる。
楽ーー!
なんだろう。
前より「病人」じゃなくて、
外で見かける車いすの人に近づいた気がした。
よき、よき。
庭に出して、
「コンビニまで行っておいでよ」
なんて言える日が来るのかな。
「あれ、取ってくれ」
って、偉そうに店員さんに頼む父の姿が想像できて
笑えてきた。
車椅子のレンタルって
状況が変わると、
その都度変えられるとことだと思う。
本当、有難い。
「似合うじゃん」
「そうか」
父、嬉しそうに乗っていた。
「ちょっと、漕いでみてよ」
開かない手で、漕いでみる。
少し、動く。
「えっ、動かせるの?」
「すごいじゃん」
母と、私ではやしたてる。
うるさい・・・笑
「リハビリ頑張ってきたからですよ」
って。どこまでも優しいリハビリの先生。
普通と違って
手のひらを使って車いすを漕ぐ。
「手が滑って、漕げないな」
リハビリの先生が、軍手の指を切ったものを持ってきてくれた。
開かない、動かない手。
軍手に指一本一本入れるの苦痛、私が。
今日しか、できないわ。
「指があたって、擦れる」
自分で開かない手で、手のひらで漕ごうとするけど
指が当たるらしい。
やっぱり、一筋縄ではいかないよね。
「手開くように、棒握らせて。
もっと開きたいわ。」
「僕、なんか考えてきます」
って、リハビリの先生。
もう、神なの?
一生、離れたくないわ。
みんな前向き。
「疲れるな。」
嬉しそうだった。
以前のリハビリは、
動かない手足を、動かしてもらうがメインだった。
今は違う。
疲れるくらい、自分で動くためのリハビリ。
父の目標が、
少しずつ現実になろうとしている。
目標は、人を動かす。
父が一番最初に動かしたのは、
車いすじゃなかった。
私たちだった。

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