リハビリ病院へ転院する日。
その日は、父が何か月ぶりに孫と会える日だった。
急性期病院では、新型コロナの影響もあり、面会できるのは家族だけ。
しかも、大人だけだった。
父が入院している間、子どもたちは一度も面会できなかった。
写真や動画を見せることしかできず、生まれたばかりの第二子にも、長男にも会えないまま、何か月も過ごした。
転院が決まったとき、私が聞いてみた。
「孫に会わせたいんだけど、だめですか?」
「リハビリ病院も、お子さんの面会は禁止だから
向こうの病院にも入れませんよ」
「移動する車の中だけでも」
「いいとは、私の立場では言えないので。
内緒で。聞かなかったことにしますね」
その言葉が、本当にうれしかった。
この機会を逃したら、次に会えるのは父が退院してから。
いつになるか分からない。
長男に会ったら、
「もう少し頑張ろう。」
そう思ってくれるかもしれない。
そして長男にも、父の存在を忘れてほしくなかった。
動画の中のおじいちゃんじゃない。
現実に生きている、おじいちゃんとして会ってほしかった。
転院先までは車で30分。
私は勝手に、ドラマみたいな再会を想像していた。
「おじいちゃん!」
「会いたかった!」
そんな場面を。
でも、現実は違った。
転院の書類に、薬の確認。
着替えやオムツ。
長く入院していたから、山のような荷物。
お見送りに来てくれるスタッフさん達。
タクシーがもう来てる?
まだ、やることが終わってない。
もう、バタバタ・・
そこまでで、みんなもう疲れ切っていた。
寝台タクシーのストレッチャーに乗って、父が病院の玄関から出てきた。
長男は、その姿をじっと見つめていた。
何を話したらいいのか分からない。そんな表情だった。
それに、初めて乗る寝台タクシー。
振り返ると、長男も戸惑っていたんだと思う。
私も転院のことで頭がいっぱい。
長男と父の間に入って会話を楽しむ余裕なんて、なかった。
病院を出るまでに
疲れ切っている父を見ながらも、
「もっと長男に話しかけてよ。」
そんなことを思ってしまった。
「おっきくなったな。」
「うん。」
「来てくれてありがとう。」
「うん。」
短い会話。
でも、父は長男の顔を見て、優しいおじいちゃんの顔になった。
「会わせられて、よかった。」
私は心の中で、そう思った。
感動の再会は
お疲れの父と
よく分からない場所に連れてこられた長男と
少し期待外れな私。
でも、会えた。
一緒の空間で過ごす時間があった。
それだけで、あの日は十分だった。

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